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  • 執筆者の写真山﨑税理士事務所

「教育資金の一括贈与」のメリットとデメリットについて



教育資金一括贈与を利用すれば、教育のための資金を1,500万円まで非課税で贈与することができます。この内500万円は、学習塾や水泳教室などの授業料だけでなく音楽教室に通っている子供の楽器などにも使用することが可能で、一見非常に使い勝手がいいように思えます。


しかし、平成25年4月1日より開始したこの制度ですが、時間の経過とともに少しずつ問題点が明らかになってきました。


本記事では、まず教育資金一括贈与の概略を述べ、その後にメリットとデメリットについてそれぞれ説明させていただきます。

「孫のためにと言われるとついついやりたくなってしまうんだよ!」とよくお聞きしますが、教育資金一括贈与が本当にお孫様に喜んでもらえる方法なのかどうか、別の方法でもっと喜んでもらえるものがないかどうかをもう一度冷静に考えてみましょう。



目次

 





一般社団法人信託協会によれば、教育資金贈与信託の受託状況は制度が開始された平成25年4月直後と比べれば大分落ち着いてきはしたものの、依然として半年に2万件以上の新規契約が成立しており、この特例の人気の高さが伺えます。まずはその効果、対象者及び必要な諸手続きなどを確認していきましょう。

なお、この特例の申し込み期限は平成25年4月1日~平成31年3月31日まで(平成28年5月29日時点)となっていますのでご注意ください。



1-1. 子や孫等に対する教育資金であれば1,500万円まで非課税になる


教育資金一括贈与とは、正式名称を「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」と言い、祖父母等から30歳未満の「孫・子・ひ孫」への教育資金の贈与について、それぞれ1,500万円を限度として贈与税が非課税になる特例です。

「1,500万円×子や孫の数」が非課税となりますので、例えば孫3人に教育資金一括贈与を行ったとすると最大で4,500万円もの財産を一括で非課税とすることができます。


この特例を使わなくても、そもそも子や孫の教育費用をその都度祖父母や親が支払うのは非課税ですが、この特例は「一括」で贈与できる点にその特徴があります。ちなみに、教育資金一括贈与を行った場合でも、毎年110万円の非課税贈与を併用することができます。


ただし、「直系尊属から30歳未満の子や孫への贈与であること」や「教育資金に使途が限定されていること」と言った一定の条件を満たしている必要があります。前者については次の1-2で、後者については1-3でご説明させていただきます。


1-2.直系尊属から30歳未満の子・孫・ひ孫への贈与でなくてはならない


直系尊属とは、曽祖父、祖父母及び両親といった直系の血縁関係にある上の人をいいます。「叔父・叔母」や「義父・義母」は直系関係にない親族ですので、この特例は適用できません。養子縁組をしている場合には法的な血縁関係が生じますので、この特例の適用を受けることができます。


また財産を受ける側では30歳未満という年齢制限がありますので、30歳を超えている子や孫は特例対象となりません。


1-3.教育資金の範囲


教育資金一括贈与はその贈与した資金の使途が教育に限定されています。贈与した資金は、受贈者の学校の授業料から音楽教室を介して購入する楽器まで幅広く使用することができますが、「学校以外のいわゆる習い事」関係の支出については、非課税枠1,500万円のうち500万円までしか使用することができません。ですから「学校」と「学校以外のいわゆる習い事」についてしっかり区別をしておかなければなりません。


①「学校」の範囲(1,500万円まで非課税となる教育資金) 原則:学校等に対して直接支払われる金銭 ・入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など ・学用品費、修学旅行費、学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など <「学校等」とは> ・学校教育法上の幼稚園、小・中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校、大学、大学院、専修学校、各種学校 ・外国の教育施設 〔外国にあるもの〕その国の学校教育制度に位置づけられている学校、日本人学校、私立在外教育施設 〔国内にあるもの〕インターナショナルスクール(国際的な認証機関に認証されたもの)、 外国人学校(文部科学大臣が高校相当として指定したもの)、外国大学の日本校、国際連合大学 ・認定こども園又は保育所 など ポイントは「学校等に直接支払われる」ところです。例えば同じ下宿代でも、学校等が管理し運営する寮であれば対象となりますが、それ以外の下宿代については対象となりません。


②「学校以外のいわゆる習い事」の範囲(500万円まで非課税となる教育資金) 学校等以外に対して支払われる次のようなもの ・学習塾や水泳教室などに直接支払われるもの ・スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など ・習い事に使用する物品の購入に要する費用(楽器や用具など) ・習い事に通うための通学定期券代 ・留学渡航費、学校等に入学・転入学・編入学するために必要となった転居の際の交通費 他にも細かい規定が沢山あります。中には例えば、小中高校等の部活動は1500万円の非課税枠を使えるけど、大学の部活動については500万円の非課税枠になる(「国税局Q&A4−4部活動の費用は非課税の対象ですか。」より)という判断が難しいものもあります。 詳しくは後で述べますが、教育資金贈与は受贈者が30歳になった時点で使い切れないと高額な贈与税を課せられることになるので、支払い金額が大きくなるような支出についてはあらかじめその支出が教育資金に該当するかどうかを確認し、しっかりと資金を使いきれるようにシミュレーションを行う必要があります。


1-4.信託銀行等の選び方


教育資金の一括贈与の申し込み先は税務署ではなく信託銀行等の金融機関となります。贈与した教育資金は一旦この信託銀行等に預けられ、必要の都度金融機関が受贈者に対して金銭を交付します。この仕組みにより、確かに贈与された資金が教育目的で使用されたことが担保されるのです。


滋賀県内だと、滋賀銀行も三井住友信託銀行の信託代理店として「教育資金贈与信託」の取扱っていますし、長浜信用金庫や大垣共立銀行なども独自のものを取り扱っているようです。それぞれの金融機関の特色をまとめようと試みましたが、サービス内容の改定が随時行われているようなので、代わりにどういうポイントを確認すべきかをご説明いたします。


①教育資金の引き出し方法を選べるかどうか 引き出し方法は「後払い方式」と「事前支払方式」の2種類があります。 「後払い方式」とは、支払った領収書等の資料に基づいてお金を引き出すことができる方法です。教育資金だけをしっかり引き出すことになるので管理が楽というメリットがあります。ただ事前支払方式と比べ引出回数が多くなってしまうので、金融機関はなるべく受贈者の家から近いところにする方が良いかもしれません。 「事前支払方式」とは、必要な資金を事前に引き出すことができ一定期間の領収書等の資料を後からまとめて金融機関に提出する方法を言います。引き出し回数が少ないので金融機関に足を運ぶ手間は省けるのですが、ついつい教育とは関係のない親の趣味のために使ってしまったりするので、管理が難しいと言えるかもしれません。もしもの場合に備え、余ってしまった資金を預金に戻せるかどうかも金融機関に確認しておくとよいでしょう。 上記の2種類の引き出し方法ですが、どちらも取り扱っている金融機関もあれば、後払い方式のみしか取り扱っていない金融機関もあるようです。ニーズにあった引出方法が選択できるか確認するようにしましょう。


②口座開設料・口座管理手数料・払出手数料が発生するかどうか 基本的に大手の金融機関だと全て無料で利用できると思います。ただ、中にはこれらの手数料が発生する金融機関もあるそうなので注意が必要です。教育資金は受贈者が30歳になるまでずっと管理が必要となるため少額の手数料でも大きな負担になってしまいます。 手数料を支払わなくていいなら金融機関はどうやって儲けるのかと不思議に思うかもしれませんがご安心を。おそらく金融機関が意図しているのは資産家の囲い込みで、この制度で資産家の方々に近づくきっかけを作り、様々な商品を営業するチャンスを狙っているのだと思います。遠慮なく無料のサービスを享受しましょう。


③窓口まで行かなくても手続きができるかどうか 受贈者は、教育資金を引き出す都度金融機関の手続きを行わなくてはなりません。ですから贈与する側もそのことを念頭に入れ、受贈者の利便性も考慮する必要があります。受贈者が引っ越しする可能性も考え、郵送等での手続きにも対応している金融機関を選ぶべきでしょう。

以上3点の確認を行い、自分のニーズにあった金融機関を選択してください。なお、インターネットで検索をすると、金融機関の上記チェックポイントをまとめてあるサイトが幾つかありますが、内容が更新されていないため現況と合わないものもありますのでご注意ください。


1-5.使い切れなかった場合等


この特例は非課税枠が1,500万円と多額であるため最終的に使い切れないケースが想定されます。その場合には、贈与者に教育資金を戻す方法と、受贈者が贈与税を支払いそのまま譲り受ける方法のいずれかにより精算を行います。


なお、受贈者がそのまま譲り受ける場合には、その契約が終了することになる30歳になった時点で贈与税が課せられることになります。


1-6.贈与者が死亡した場合


贈与をした日から教育資金管理契約終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、相続開始前3年以内であっても相続財産に加算されることはありません。




教育資金の一括贈与は有効な相続対策の一つではありますが、当然のことながら万能の策というわけでわありません。一度贈与をしてしまうと取り消すことはできないので、ご利用の際にはデメリットについて十分理解された上で、慎重に判断をするようにしましょう。


2-1.贈与を受け取った人が行う手続きが面倒です

この制度を利用するには信託銀行等に一旦お金を預けなくてはならないのですが、その信託銀行等からお金を引き出すためには塾等から受け取った領収書等をいちいち整理して提出する必要があります。このめんどうくさい作業を受贈者が30歳になるまで続けていかなくてはならないと思うと、せっかくの感謝の気持ちも薄れてしまうかもしれません。


さらに、教育資金として認めて貰えるかどうかの判定が非常に難しく、当てにしていたのに結局資金を引き出すことができなかったということもあります。例えば冒頭で述べた「習い事の楽器代」ですが、自分で購入したものは教育資金には含まれません。教育資金の対象にするためには必ず指導者から購入したものでなくてはならないというルールがあるのです。つまり、支出の度に教育資金に関する細かいルールを確認しなければならないのです。


2-2.そもそも相続税がかからず節税対策として無意味だった上に、贈与を受け取った人に無駄な手間をかけさせてしまった


この制度を利用するには信託銀行等に一旦お金を預けなくてはならないのですが、その信託銀行等からお金を引き出すためには塾等から受け取った領収書等をいちいち整理して提出する必要があります。このめんどうくさい作業を受贈者が30歳になるまで続けていかなくてはならないと思うと、せっかくの感謝の気持ちも薄れてしまうかもしれません。


さらに、教育資金として認めて貰えるかどうかの判定が非常に難しく、当てにしていたのに結局資金を引き出すことができなかったということもあります。例えば冒頭で述べた「習い事の楽器代」ですが、自分で購入したものは教育資金には含まれません。教育資金の対象にするためには必ず指導者から購入したものでなくてはならないというルールがあるのです。つまり、支出の度に教育資金に関する細かいルールを確認しなければならないのです。


2-3.教育資金の一括贈与を行ったことにより子供達の仲が悪くなってしまった


特定のお孫さんに贈与をしたことで、それが原因で兄弟の仲が悪くなってしまったということもあります。これは何も「教育資金の一括贈与」に限ったことではなく、どんな贈与を行う場合にでも注意してくてはならないことですが、特に「教育資金の一括贈与」の場合には「一括」の贈与であるため金額が大きくなるので、細心の注意を払う必要があります。


贈与をする前に必ず行って頂きたいのは、受贈者だけでなく他の贈与を受けない子供達にも贈与を行う旨とその意図を伝え、しっかりと了承を得ることです。自分のお金の使い道を何でいちいち子供に確認しなければいけないのかと感じるかもしれませんが、この一手間をかけるだけでその後の展開がスムーズになるだけでなく、例えば特定のお子様が抱えている悩みについて兄弟間の理解が深まり、相互扶助を促すことができるかもしれません。


「子供達のことは私が一番よく知っているし、子供達も私のことをよくわかっていてくれるはずなので、特に相談する必要はない」という方もいらっしゃいます。確かに、お子様と一緒に住み続けている場合にはその通りだとは思いますが、親元を巣立ち遠方で暮らしているお子様は日々成長され続けています。特にご家庭を持たれたお子様に関しては、彼ら自身にもあなたと同じように守らなくてはならない家族がいるので、思考や価値観も昔とは大きく変わっていることでしょう。昔の思い出だけで「彼らはこう考えてくれるはずだ」と判断するのは早計です。逆に、この機会を使って遠くにいる子供達の成長を確認するぐらいの気持ちで、贈与について子供達と話し合ってみるのもいいかもしれません。





上記2では教育資金の一括贈与についてのデメリットを長々と語ってきましたが、もちろんメリットもあります。ただし、今から述べるメリットは限られた条件で有効なものであることを忘れないでください。「孫のため」だとか「1,500万円が非課税になってお得!」という雰囲気のいい言葉をただ羅列しただけの広告には惑わされないようにましょう。


3-1.教育資金の一括贈与は「孫」にやるものではない!「ひ孫」にやるものだ!


多くの金融機関が「孫」に対してこの制度を利用するよう広告宣伝を行っていますが、私の考えでは教育資金の一括贈与は「孫」ではなく「ひ孫」に対して行わなければ節税策としてあまり意味がないのではないかと思っています。


というのも、そもそも何のために「教育資金の一括贈与」を行うのでしょうか?金融機関の販売員たちは「孫のため」だとか「思いを伝えるため」だとかもっともらしいことを言ってくるかもしれませんが、あなたは別にわざわざこんな制度を使わなくても可愛いお孫様のためならばいつだって教育資金を贈与しようと考えているはずです。そもそも昔から、教育資金を子や孫に贈与したとしても非課税なので、わざわざ面倒くさい手続きが増えるこの特例を適用する理由がありません。

ですが、もしあなたが何らかの理由でお孫様が社会に出る前に亡くなってしまい、さらに想定される相続税率が非常に高くなってしまうときは、確かに「教育資金の一括贈与」により事前に一括で贈与をし、節税を図れるかもしれません。


しかし、冷静に考えてみるとこれもあまり意味がないことがわかります。まず、お孫様が生まれる時のあなたの年齢は、30歳で子供を産み子供も同じく30歳で孫を産んだと遅めに見積もっても60歳ということになります。次に子供が社会に出るまで24年と見積もっても84歳まで生きていれば問題ないことになります。つまり、84歳まであなたかその配偶者が生きていれば、「教育資金の一括贈与」を利用するメリットは全くなくなります。男性の平均寿命は80歳ぐらいですが、女性の平均寿命は87歳ですので、平均的なご家庭ではあまり効果はないと考えた方が良さそうです。


ただし、もしかしたら認知症など判断能力がないとみなされるような状況になった場合に備えて保険的な意味合いでこの特例を適用してもいいかもしれません。ただし、この特例を使うことにより、受贈者は30歳になるまでこの煩わしい手続きを行っていかなければならないことを考慮する必要がありそうです。


ここまでメリットと言いながらデメリットのようなことをつらつらと書き綴ってきましたが、それでも教育資金の一括贈与には可能性はあります。それは「ひ孫」に贈与を行うという道です。


つまり、あなたは「ひ孫」が大学院を卒業する24歳まで生き続けることはおろらく困難であるという予想の元に、贈与を一括で行うことができるこの制度を最大限利用し、高額な相続税を課せられる相続財産を減らすことができるのです。具体的に言うと、ひ孫が3人で想定される相続税率が30%だとすれば、最大で1,500万円×3人×30%で1,350万円も節税をすることができる訳です。


問題は果たしてあなたが「ひ孫」が生まれるまで生きていられるかということです。実際にはほとんど役に立たない「教育資金の一括贈与」ですが、もしかするとあなたに健康で長生きして欲しいという国からのメッセージなのかもしれませんね!


3-2.暦年贈与の基礎控除も併用できる!


教育資金の一括贈与は毎年110万円をコツコツ贈与する方法(暦年贈与)と併用できるので、両方合わせて実施すれば大きな節税を行うことができます。ただし、これが有効なのは3-1で述べた「ひ孫」に対する贈与に意味がある人だけになりますので、ひ孫が生まれるまで長生きした方だけが「教育資金の一括贈与」と「暦年贈与」を併用する旨味を享受できることになると思います。


ただ、ひ孫の代とまでなると、2-3で述べた子供達や孫たちの関係を考慮するのが難しいかもしれませんね。


3-3.使途を教育目的に限定して贈与を行うことができる!


贈与をしても親が無駄遣いしてしまいそうで躊躇しているという方には、使途を教育目的に限定して贈与ができるこの特例を利用するメリットがあるかもしれません。その場合には、信託銀行の教育資金の引き出し方法を「後払方式」に設定すると良いでしょう。でも、教育資金を渡したことにより、それを当てにして無駄使いされてしまうかもしれませんし、やっぱり一番いいのは必要な時に必要な額だけ贈与することではないでしょうか?




この記事を書くにあたって再度調べ直してみたのですが、結論としてはやはり「教育資金の一括贈与」はあまり有効な相続対策にはならないというのが私の考えです。思わぬ不幸で相続が発生してしまった時の保険として使う場合でも、学校等の学費などに絞って使いきれる分だけ贈与されるのが良いでしょう。

本記事を通じて、あなたの思いを伝える手段として本当に「教育資金の一括贈与」が最適な方法かどうかもう一度じっくり考えていただけると嬉しいです。


滋賀在住の方であれば所長の山﨑がほぼ毎週、大津や彦根で個別相談会を実施していますのでご利用して頂ければと思います。


本記事はWeb担当の奥村が書かせていただきました。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。





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